「悪霊」第五部を掲載しました。

ちょっと解説めいたことを書きますと、今回出てくる探偵作家はもちろん、江戸川乱歩がモデル。この人、「人間椅子」だの「芋虫」だのから想像されるように、ちょっとMっ気がある人なんですね。同時代には谷崎潤一郎という一大M男作家がいたりして、日本文学史はなかなか変態なんですが、一方でこの時代の日本文学でさかんに取り上げられたのが、カフェの女給さんです。

現在のアメリカなんかは未だにそうですが、戦前の日本でも、現在で言うウェイトレスさんの収入は、お客さんからのチップだけだったみたいなんですね。となると、たんに注文をとったり、食事を運んだりするだけではなく、お客さんと会話してもてなすこともお仕事のうちだったみたいです。とはいえ、ホステスさんとかキャバクラ嬢のようにべったりお客にくっつくわけでもなく、今の日本でいちばん近い職業は、おそらく秋葉原のメイドカフェのメイドさんじゃないかなと思います。

実際、当時の女給さんの標準的なスタイルは和服にひらひらのついたエプロンなんですが、これがまたどことなくメイドカフェのメイドさんにそっくり。 手首足首まで着物で隠す露出度の少ないコスチュームに、より「萌え」を感じるあたりも、今も昔も日本の男は「おたく」だったんですよね。

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ちなみに、今回重要な役目を果たす女給の直美さんの名前の由来は、言うまでもなく大M文豪・谷崎潤一郎の「痴人の愛」のナオミさん。まあ、こういうネーミングのお遊びは、小説を書く上での醍醐味です。

というわけで、第五部までアップしてしまいました。第七部までは書き上げているのですが、その続きは現在ちょっと書きあぐねています。ひょっとしたら、箸休め的に、別の短い作品でも書いてみようかなとも考えています。